旅する山の恵み

あぜのはら散歩

春になると地中から様々な植物が芽を出します。

冬の間、寒さで凍てついていた大地から、淡く幼い色をした若葉が顔を出すと春の訪れを感じると共に気分もほっこり和みますよね。

気温が上がるのを、今か今かと地中で待っていた植物の芽吹きはまるで、長い眠りから目覚め「う~~ん。」と両腕を上げて伸びをする人の姿にも似ているようでほほえましくも思います。

やっと太陽ともご対面となった植物はまだその体も軟らかで香りも良く、この時期に山菜を採り、召し上がるのを毎年の春の楽しみとされている方は大勢いらっしゃるのではないでしょうか。

私も何十年も昔の話になりますが、私がまだ実家で暮らしていた頃、自宅から歩いて5分ほどの山によく行っていました。気候的に穏やかな春や秋には3、4日に一度ほどの頻度で母ちゃんと二人、もしくはご近所さんとも一緒だったりと散歩のようなものでした。

ですが、「散歩のようなもの」のはずの山歩きが春になればワラビやゼンマイなどの山菜採りが目的となり、私は山菜取り要員として母ちゃんとの同行が必須義務みたいになっていました。

母ちゃんは雪深い山の中の集落の育ちでしたので山菜に詳しく、とりわけゼンマイが好きだったようです。

皆さん、ゼンマイをご存じですか。韓国料理のナムル(朝鮮の家庭料理の一つ。塩ゆでした野菜・山菜・野草などを調味料とゴマ油で和えたもの)にもありますね。甘辛く味付けられた茶色のゼンマイナムルがピビンパに入っていることも多いと思います。

ピビンパに入っているゼンマイナムルをゼンマイとは知らずに口にされた方も、中にはいらっしゃるかも知れませんね。

母ちゃんの場合、採ってきたゼンマイやワラビは全てたっぷりのお湯で湯がいてから、庭に敷いたゴザに広げ、天日の下で揉んで干し、完全に干からびるまで揉んで干し、を毎日繰り返していました。勿論、山菜採り要員の私は、この作業(ゴザの上・揉んで干し)も作業員として参加していました。

…ですので、このころの私は山で採りたてのワラビやゼンマイを緑の色も豊かな状態では食べたことがありませんでした。保存食のような乾燥ゼンマイ(ワラビ)を作るため、湯がき終えた山菜を、ひたすらに揉んで揉んで揉み続け、最終的に立派に?カラカラになった干物は、母ちゃんがゼンマイを食べたい時に煮物になっていました。

干物から煮物となったゼンマイやワラビを私も食べていたとは思いますが、その味については殆ど記憶がありません。きっと、子供心に、それらの山菜が美味しいとか味覚に関する記憶より、山菜採り要員、そしてゴザの上・揉んで干し作業員として従事していた印象の方が強かったからでしょうね。

ちなみに、母ちゃんの幼い頃は、冬が来ると二階の窓から出入りしなくてはならないほど多くの雪が積もったといいます。厳しい冬が訪れると畑の作物は何も採れず、食べる物にも困るような時代、乾燥ゼンマイやワラビはとても貴重な食材だったと想像します。なので、春になって山菜を摘んでは冬まで長期保存させる為にせっせと乾燥させていく作業は、母にとっては生きるために当然のイべントだったでしょう。

とはいえ、私自身は干物山菜ではなく緑の色をした山菜を食べてみたいと思っていました。昔、母ちゃんにそのよう話したことがあったのですが、

「ワラビは藁灰(わらばい)に浸さないとアクが強くて食べられない。うちには藁灰がなくてアク抜きができないから乾燥ワラビしかムリ。」

と言われてしまいました。

きっと母ちゃんの中では冬に向けての食材確保が山菜採りの目的だったので、アク抜きの処理をして数日のうちに食べるという事には関心がなかったのだろうなと、今なら見当がつきます。

(母の物言いからして、当時は藁灰を使ってのアク抜きは、まず藁灰の入手そのものも難しいことなのかと思っていましたが、今では山菜のアク抜きの方法はインターネット等で昔より遥かに簡単に調べられますし、必要な材料も調達できるので全然難しくないことが判りましたけどね☆) 

結局、自分が採ったワラビでは山菜蕎麦の上に乗っているような緑色の状態で一度も食べることもないまま私は、山菜採り要員とゴザの上・揉んで干し作業員を離職することとなりました。

スーパーで売られているような、山菜がいろいろ入っている水煮のワラビではなく自分が摘んできたものを自分でちゃんとアク抜きをして一度食べてみたい!…そういう思いをうっすらと抱きつつ、自宅から100キロほど離れた実家へ行った際、昔、母ちゃんと山菜採りをした実家近くの山へ出かけてみました。

すると、入口がフェンスで囲まれ入山できなくなっていました。フェンスに貼られていたのは「野生動物・危険」と書かれた札。さすがにフェンスを乗り越える暴挙には出られません。 

 なお、いま住んでいる周辺には山がなく、山のあるところへ出かけてもそこは山菜を採っても良い山なのかどうか以前に、勝手に入っていい山かどうかも分からず、私自身、山そのものと疎遠になってしまっているんだなぁ、と改めて感じることとなりました。

そんなこんなで、よほど山菜採りが好きな人と知り合いにならない限りは私には山菜採取は困難だとずっと諦めていたのですが、たまたま山奥の民宿に出かけたおり、そこの駐車場の畔にワラビの群生と出会いました。タンポポの綿毛を携えたようなフキノトウも見ることができました。

フキノトウです

フキノトウの綿毛はもう少しすれば風に揺られて旅に出るでしょうね。

ちなみにワラビの群生からは片手に掴めるほどの本数を摘みました。久々に摘んだワラビの感触が懐かしく、また、そのワラビ独特の香りを楽しむために手にしているワラビを鼻の近くで少し振ってみました。

するとワラビについていた胞子が陽に当たり、キラキラと輝きながら舞い飛びました。

種子をつくらないシダ植物は胞子という粉のようなものをつくって仲間を増やしますが、ワラビもそのシダ植物の種類です。ワラビの他にはゼンマイやスギナ(ツクシ)も該当します。   

キラキラと飛び立ったワラビの胞子たちが風に乗って旅をして、新天地で元気に育ってくれたらいいなと思いつつ、もしまたいつか山菜採りの機会があったならビニールやレジ袋に閉じ込めるのではなく、採った山菜(又はキノコ)は網目のあるカゴに入れて、植物の子供たちが旅立てるようにしてあげなきゃ、と思った次第です。

可愛い子には旅をさせよ!…ですね。 

~~~後日談~~~    

持ち帰ったワラビは重曹でアク抜きをしてから、白だしで軽く炊いてみました。干物ワラビと違ったシャクシャクとした歯ごたえも心地よく、母ちゃんにもお供えしました。おいしかったです。ごちそうさまでした♡ 

   

    

 

 

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