ゆうゆうと泳ぐ色鮮やかな鯉のぼりは、爽やかな五月の青空に映えて大変美しいです。
端午の節句が近づくと家のベランダや庭に飾られているのを見かけますし、また、地域の催事やお祭りにも使われたりと、、、鯉のぼりからもうかがえるように、鯉は日本人にとって縁起が良いとして大切にされ、また親しまれてきた魚です。
日本書紀では日本武尊(やまとたける)の父、景行天皇が自分の庭の池に鯉を放って鑑賞していたとあります。神話ほどの昔から鯉との関わりがあったんですね、食用ではなく観賞用ということにも驚きです。
ちなみに観賞用の鯉は体つきも色も非常に美しく、鯉に疎い私には全ての鯉が貴重で高額に思えるのですが、そもそも、ナゼ華やかな色の鯉に限らず黒っぽい鯉でも縁起が良いとされているのかを、皆さんご存じでいらっしゃいますでしょうか。
諸説ある中のいくつかをご紹介したいと思います。
★「登竜門」(中国・後漢書による故事)
鯉にまつわる中国の伝説。黄河の急流にある「竜門」と呼ばれる滝を多くの魚が登ろうと試みるものの鯉だけが登り切り、鯉はそこで竜となり天に昇って行ったそうです。
栄達する為の難関を「登竜門」と呼ぶのもこの故事に基づきます。なお、初期の鯉のぼりは黒い鯉が1匹だけだったそうですから、当時の鯉のぼりはまさに竜となり天に上っていった鯉を模していたのかも知れませんね。
他には、鯉が神様の使いとして大切にされている神社があったり、また、薬用魚として珍重されていたり、しかしながら鯉の効能や栄養を評価しつつも高価な為に当時は鯉を買えない人も多く、鯉の絵柄を身につけたりすることで健康祈願としたり、さらには鯉が備え持つ、環境に順応する力や生命力の強さにあやかろうとするなど…鯉が縁起の良い魚とする理由は様々です。確かに立派な口ひげや堂々とした体つきの鯉は見るだけでも吉兆かも知れませんね。
ただ、こんなにも縁起が良いとされる鯉ですが、今現在においては「在来種(日本の鯉)」と「※外来種(ヨーロッパ、中国などからの輸入鯉)」がいて、しかも純系の在来鯉は大規模水域(琵琶湖、四万十川など)に限定的に残存するのみ…という状況なのです。
このことを一体どれぐらいの方がご存じでしょうか。(※ここでいう外来種の鯉はカラフルな観賞用の鯉のことではなく河川に棲む黒っぽい色の鯉を指します)
ということは…、私は今まで、近所の川で立派な体格の黒々とした鯉を見かけるたびに、
「外来種のブルーギルやブラックバスにも負けずに日本の鯉はがんばって生きているのね!これからもたくましく生き抜いてねー!!」と、ココロの中で応援していたんですが、ひょっとして勘違いをしていた?
…はい、そうなんです。私は色とりどりの観賞用の鯉だけが外来種だと思っていて、河川にいる黒っぽい鯉は昔から日本にいる在来種だと、ずっと思っていたのですが、これがとんだ勘違いというか間違いだったんですね。
明治以降に外国から輸入された外来種の鯉は、養殖化が進んでいるために非常に警戒心が薄く都市の河川の浅場を泳ぐ鯉の全てが外来種と言っても過言ではないそう。→私が応援していた鯉たちは全て外来種ということです。(えぇ~~!?)
一方で、もともと日本にいる在来鯉は長期間飼育していても警戒心が強く、ましてや街なかを流れる河川の浅いところを泳ぐなんてあり得ないのだそうです。
そのような鯉の性質や体型の違いについては、前々から漁師や釣り人のあいだではよく知られていたそうです。(外国の外来鯉は飼育型で太め・日本の在来鯉は野生型で細め→極端な例え方をすれば、外来鯉はタイのようにポッテリとしていて、在来鯉はサンマのよう。ホントにかなり極端な例え方ですけどね※ちなみに下図の写真は体型の参考にアップしたまでです。鯉ではありませんので、あしからず…)
ではいつ、漁師や釣り人など限られた人だけが鯉の違いに気づいているという状態から、その違いがおおやけで明らかとなったのでしょう。
それは、実は比較的最近の話なんです。2003年頃、コイヘルペスによる鯉の※斃死(へいし)が問題となり、調査した際に在来鯉と外来鯉の存在が明らかとなったそうです。※斃死…行き倒れて死亡したり、野垂れ死をしたりすること。動物が突然死ぬことを指す事が多い。
ということはですよ。明治の頃に日本に輸入され、日本の河川に放流された外来鯉たちは、その後どうなったのか気にとめられることも調べられることもなくずっとホッタラカシにされていたということでしょうか…。
しかしながら、ここ十数年、DNA解析をきっかけに日本の鯉(在来鯉)に対する科学的な見方が大きく変わりました。
「日本の生物の多様性を守る」という観点から守るべき在来鯉、それに反して外来鯉は悪影響を及ぼす可能性が高い、と。
でも、そういいつつも日本は外来鯉への具体的な対策を講じたり積極的な駆除を行っていないのが現状です。※ちなみにアメリカやオーストラリアは自国で増え続ける外来鯉の対策に乗り出しています。
日本にも鯉は存在しているのに明治時代にわざわざ外国から輸入、そして日本の河川に放流。現代においては外来鯉は悪影響がありそうで問題だと、実に人間の身勝手さが浮き彫りとなっている事案かと思います。外国生まれの鯉たちは棲み慣れた場所で捕らえられ、知らない間に日本という異国に運ばれ、さぞ迷惑だったことでしょう。
そのように、外来鯉に対しささやかながら同情を抱いている私ではありますが、それでも、鯉には昔から日本にいる在来種と輸入された外来種の2種類があるという正しい情報をもっと発信していくべきだと思うのです。それが外来鯉にとって死活問題になろうとも。
なぜなら、外来鯉とは知らずに(たぶん、ご存じないのでは?と推測)、住宅街の中にある河川に棲む鯉へエサを与える人をよく見かけるからです。人懐っこい飼育型の外来鯉はエサがもらえる時間になると水面に寄ってくるのでエサを与える人間の方も、まるでペットを飼っているかのようにエサやりを日課としているのかも知れません。
しかしながら、ただでさえ鯉は色んなものを食べる雑食性です。どんなものを食べるかといいますとミミズやトンボ、雑魚や卵、ザリガニなどの他、変わったところではタニシやカワニナの貝類や、藻、水面に落ちた柿を食べることもあります。鯉を釣るエサとして蒸かしたサツマイモを使ったりもしますので、鯉はイモも好むのでしょう。
こんなにも色んなものを食べる鯉は、無意識のうちに偏りのない食事を自然の中で摂取しているのでしょうが鯉のエサやりを日課にする人が現れれば、鯉は自分でエサを摂らずに撒かれるエサで賄うようになってしまいます。与えるエサが自然界にはないパンやスナック菓子といった高カロリーな加工品では鯉にとって良いはずもなく又、では鯉の為にきちんとした鯉用のエサを与えれば良いのか?と言われても、個人の池ではなく公の河川では誰がいつどんなエサをどれだけ与えたかなど管理し得るはずもなく、ただ無責任な人たちが無責任に鯉にエサをやっているに過ぎません。
もし、このように鯉のエサやりを日課にしている人が、エサを与える対象としての魚が鯉ではなくブルーギルやブラックバスといった明らかに外来魚だったならば、どうだったでしょうか。
私の想像ですが…、ブルーギルやブラックバスは駆除すべき外来魚としての情報が広く知られていますのでエサを与えるなど積極的に保護することはありえないのではないかと思います。
一方で、やはり鯉は昔から縁起がいいとされる魚なので、鯉の世話をすること、すなわちエサを与えることは善行だと思っている方が多いのではないかという点。そして、観賞用以外の黒っぽい鯉にも在来種と外来種がいて一般的な都市部の河川には外来種しか棲息していないこと、在来種は人里離れたごくわずかな場所にしかいないことを多くの方が知らないのではないかという点。
…それらの理由から、鯉にエサを与える人は、罪悪感どころか人助けならぬ鯉助けのようにして鯉の餌付けをしてしまっているのではないかと推測します。あくまで私の想像ですが…。
また、川の上から見える魚影にハッキリとした特徴がなければ魚に詳しい人でなければ魚の種類を見極めるのは難しく、例えば、背びれがどうだとか体の色がどうだとか何か違いがあれば、もっと在来種・外来種の鯉の違いについて把握しやすいだろうに…、両者の違いとする警戒心の強い、弱いは外観の特徴とはいえず、見た目の違いも魚を釣り上げてみないとわからない。そういう曖昧さを逆手にとってか、今日も外来鯉は、
「オレオレ、鯉だぜ。メシをくれ。」 と、在来鯉、日本の鯉風に?水面から愛嬌たっぷりと大きな口を開けるのかも知れません。
在来鯉を見る機会もほぼなくなっている今、私たちは簡単に外来鯉に騙されてしまっているのかも、です(外来鯉には騙している気はないと思いますが★)。
ともかくも…、
野生で生きる生物との関わりには私たちはもう少し慎重であるべきで、時に関りを持たない方が良いということも学ぶべきなのでしょうね、在来種を含め生態系を守る上でも。
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