「どうもお待たせしました。」
そう言って渡された花束は包装紙に丁寧に包まれていました。
その包装紙は白地に、少し褪せた桃色のインクで花屋の屋号と小菊の模様が紙いっぱいに描かれていて、レトロというか、昭和な雰囲気を醸していました。
そして、包装紙の中の花束は咲いている状態のものだけでなく、これから咲こうとしている蕾(つぼみ)たちも自分の使命を悟っているかのように凛とした雰囲気をまとっていたのです。
表通りから奥まった場所にあるこじんまりとした花屋の、小柄で優しいおばあさんが
笑顔と共に手渡してくれるその花束の心地よい温かさに浸りながら、私は心の底から思いました。
「ここでお花を買うことができて本当に良かった…!」
翌日は、私、フミの母ちゃんの法事。
法事に際し出発時刻は朝も少々早めの時間を予定していたので、
法事と墓参りに必要なお花は前日に準備と決めていました。
ちなみに、
法要を依頼しているお寺さんへは自宅から車で片道5時間ほどの道のりです。
殊に高速道路を下りてからお墓へ向かう約一時間はかなりの山道で、
(落石でボコボコになっている落石注意の看板が点在し、
山下達郎さんの「♪雨は夜更け過ぎに雪へと変わるだろう…」の(クリスマス・イブ)歌詞をそのまま、「♪雨は峠過ぎてミゾレそして雪へ…」と替え歌にできるほど天候が極端に変化する)、
ご想像通り?、山に入ってしまうとお墓迄の道中、スーパーやコンビニはありません。
山の美しい景色に癒されるのはとてもありがたいのですが高速は高速特有の運転疲れがあり、
山道には山道ならではの疲労があります。特に、今回の法事では運転手は私しかいなかったので、
そのあたりのことも考えてはいました。眠気除けドリンクや、コーヒーも準備万端に。
(もちろん、ハンドルを握っていて疲れを感じたら、なんといっても早めに休憩をとることが一番ですけどね)
そして、些細なことかも知れませんが、憂い・イライラ・悲しみなど心の落ち着きを乱すものを作らない、
もし今、抱えていることがあるのならば、それ以上は引きずらない、思い起こさない、運転中は運転に集中……と、思っていました。
法要にて故人を偲び、また故人の安らかな眠りを望む遺族側の精神がイライラ状態とか、それって
どうかと思いますしね。
ともかく、
運転する時間が長いので普段より更に慎重を心がけること、
その為には体調のみならずメンタル面にも気を付けよう…そう思っていたにも関わらず、
私は大きく出鼻をくじかれることになってしまいました。
実は、前述の、表通りから奥まったところにあるこじんまりとした花屋へ行く前に、
私は別の花屋に行っていました。最初から、法事用、墓参り用と沢山の花を買うつもりだったので
車で出かけていました。
その花屋の前の道は、私の車を止めても通りの往来に支障がないほどの充分な広さがありましたので。
その花屋を仮に、大通りの花屋さん、としますね。
大通りの花屋さんには、花の種類も多く取り揃えられていました。
ただ、花の名前や値段の札はなかったので、購入候補となりそうな花を目にする度に私は店の人に値段を聞くこととなりました。
店には中年の女性従業員が一人だけで、私の入店前から何やら花を仕分けるような作業をしていて、
私が花の値段を聞くたび、その作業を中断し、尋ねられている花を確認、金額を答える、という動作を
繰り返す羽目になったので、段々と女性の表情は面倒そうなものへと変わっていきました。
私も、なんだか彼女の不機嫌そうな顔を見るのがイヤで、途中からは値段を聞くのをやめてしまいました。
今思い返せばいろいろとその時の選択肢はあったんでしょうけどね。
お花を少しだけ買って店を出る、
全く買わずに店を出る、
〇〇〇〇円分でお花を見繕ってほしいと店任せでお花を選んでもらう、、などなど。
でも、結局私は自分でお花を選び、
「法要と、お墓参りに使うんで、これとこれは包みを分けてください。」と女性に包装のお願いをすることに。
花束が完成する間、常連客らしいお婆さんが来店。仏様のお花をご所望のようでした。
私のお花をこしらえながら、とても愛想がよくなった(さっきまでの仏頂面とはうってかわった)女性の背後、、
店の奥から若い男性が急いで出てきてお婆さんの相手を始めました。
私とすれ違いざま、私の足の指あたりを蹴っていったんですが(ちょうど私は巻き爪を切って日が浅かったので、まあ、痛いのなんの……(涙))
でも彼は全く気付いていないようで、、、
いや、蹴ったとか以前に私の存在すらアウトオブ眼中だったのかな、と思います。
→いらっしゃいませ、すら言われなかったので★
すると、また常連客らしい男性が来店。
男性は、お祝い用の鉢について尋ねていました。すると、また、店の奥から花屋の店主らしき御仁が出てきました。
鉢の話はそこそこに近所に最近出来たレストランの話題に花を咲かせています。花屋だけに……(寒い?)
あとになって奥から次々に出てきたスタッフ(店主?)はどうしてもう少し早く、私が花の値段を聞いている時に出てきてくれなかったんだろう、なんでいらっしゃいませと私は言われないのだろう、
なんで足を蹴っ飛ばされてスルーされちゃうんだろう、
湧き出すWHY?の数々が、一刻も早くここを出たいという気分へ私をいざないます。
色とりどりの綺麗な花に囲まれながらも私は気分が悪くなっていました。
で、ようやくやっと花束が出来上がりました。
やれやれ。
しかしながら渡された花束は、新聞でぐるぐる巻きにされただけのものでした。
この作業にあれだけ時間を要したのなら、
最初から包まなくて結構です、とさっさと精算してもらっていればよかったと後悔しました。
そうしておけば足も蹴っ飛ばされずに済んでたかも知れませんからね(涙)
そして、言われた通り代金を払ったものの、自分の中ではかなり割高な値段でした。
でも一本一本の花の値段の内訳も分からず、かといって代金を確認するよりも、もう早く店を出たい
という気持ちの方が強かったので、お釣りをもらうとそのまま店を出ました。
レシートや領収書がないことにも、とやかく言う気も失せていました。
もしも、こういう事が飲み屋で起こったならば……。
店員の態度がよろしくない、勘定が割り増しされているかも知れない(お通しが高いのか?席料が高いのか?)、
腑に落ちない事はあるのだけど、直に店側に「どうなってんねん?」って尋ねるのもなんだかなぁ…
「おっしゃー、ここを出て別の店で飲みなおしじゃぁ~!」ってこと、ありますよね?
飲み屋の飲みなおしさながら私は花屋で「買いなおし」を決行致しました。
詳細は冒頭の通り。
こじんまりとしたお花屋さんで、とても気分よくお花を買うことができました。本当にありがたかったです。
やはり、お花って嬉しい時、哀しい時、人の気持ちのその時々に寄り添ってくれるものじゃないかなと私は思うんです。
そういう、時として人の思いを担うお花を売り物にしているお店の人には、
最低限「いらっしゃいませ」ぐらいは言ってほしいなぁと思う一方、、
逆に、お花について色々とアドバイスをしてもらったり、
丁寧な対応でお花を包んでもらうと、まるで、お花屋さん自身が丹精込めて育てたお花を頂いていたようで、花瓶に入れるだけの切り花だとしても、大事にお世話させてもらいますね、って、そんな気持ちになりますね。
ともかくも、
翌日はスッキリした気持ちで遠路を運転し、無事に法要も墓参りも済ませることができました。
ただ、最初の大通りの花屋で結構な量を買ってしまったので、2軒目のこじんまりとしたお店の方では、
あまりお花が買えなくて、それがとても残念。
また近々、買いに行きます。
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